ある日の暮方のことである。
秩父層石灰岩中ニ於ケル石灰洞ノ天井ノ一部崩落セルニ依リテ生ジタル天然石門ニシテ大小四個アリ互ニ相接シ石灰岩ノ侵蝕ニ基ケル地貭上ノ奇現象ナリ石門列ノ一端ニ奥行九〇メートルノ石灰洞窟アリ
秩父層石灰岩中の石灰洞の天井の一部が崩落したことによって生じた天然の石門であって、大小四個が存在する。石灰岩の浸食に基づく地質上の珍しい現象である。石門の列の端には、奥行き90メートルの石灰洞窟が存在する。(筆者口語訳)
1930.08.25(S05)指定
(文化庁 国指定文化財等データベースより引用)
所在地
岡山県新見市草間
訪問難易度
★★☆☆☆
途中1.5車線幅の道路もありますが、すれ違い不可能なほどではありません。
駐車場完備。
訪問記録
2023年5月3日
GWの山陰旅行中に訪問しました。この日は近くにある同じく天然記念物の”草間の間歇冷泉”に行ったのち、羅生門に立ち寄りました。名前に惹かれすぎて行くことを決めたのですが、着いて見てみたら天然記念物でした。ラッキー(?)
駐車場からは緩やかな坂道を下っていきます。後ほど解説しますが、羅生門一帯は石灰岩地帯で、羅生門は鍾乳洞の天井が崩落し残ったものとされています。石灰岩地帯にはこうした、地下洞窟が崩落してできた窪み状の地形がよく見られ、これをドリーネと呼びます。すなわち、この下り坂はドリーネに向かって下っていく坂道ということですね。
しばらく歩くと右下に分かれていく道があるので、そちらをさらに下っていくと、真正面に羅生門が構えています。15時半ごろに訪れたのですが、傾いた日はドリーネの底にいる私には届かず、羅生門のみを照らし出すスポットライトのようでした。日の光を浴びて石灰岩の白色が輝いてなんだか神秘的な光景です。
さて、引き返して先ほどの分かれ道を今度は左に進むと、ほどなくして行き止まりに行きあたってしまいました。この先も遊歩道があるらしいのですが、どうやら西日本豪雨の影響で破損してしまったようです。早期復旧を願います。
行き止まりの横には、羅生門を見下ろせるスポットがありました。ここからだとドリーネの地形がよく分かります。この眼下の景色を覆うようにかつては洞窟の天井があったこと、さらにそれが崩落してこの地形が形成されたことを思うと、地形の変化のスケールの大きさに思いを馳せずにはいられません。
解説
カルストとは何なのか
秋芳洞の秋吉台、羊群原の平尾台、雄橋の帝釈台、そしてこの羅生門や井倉洞の阿哲台…。すべてに行ったことがある人はカルストマニアといっていいでしょう。いや、それぞれが著名な観光地ですから、案外そうと知らずに行ったことのある人も多いかもしれません。
さて、これらに共通するカルスト地形とはいったい何なのかというと、石灰岩で構成された台地が侵食を受けた際に作り出す独特な地形のことを指します。そもそも石灰岩とは、炭酸カルシウムからなる岩のことです。炭酸カルシウムは身の回りの物で言えば貝殻やサンゴの主成分で、チョークやコンクリート、肥料などに使われている非常に重要な岩石資源の一つです。
この石灰岩が持つ、他の岩石と大きく異なる特徴として、酸性の水(溶液)によって溶解することが挙げられます。自然界で一番ありふれた酸といえば、炭酸です。空気中や土壌中の二酸化炭素を取り込んだ水によって、石灰岩の主成分である炭酸カルシウムは以下の反応によって溶解します。
CaCO3 + H2O + CO2 → Ca(HCO3)2
ただしこの生成物である炭酸水素カルシウムは不安定であり、逆に二酸化炭素を吐き出して炭酸カルシウムに戻る反応も同時に起こります。このように、溶けたり析出したりを繰り返しながら侵食されることで、石灰岩の大地は鍾乳洞やカルスト地形を作り出すのです。このような溶かし出されることによる侵食のことを特に、溶食と呼ぶことがあります。
谷の形成、洞の形成、門の形成
雨水や地下水は石灰岩の割れ目に浸透しながら石灰岩を溶かし出し、岩の割れ目はやがて巨大な空洞に変化していきます。そうして拡大を続けた洞窟がいつか崩壊すると、そこに窪地が残ります。このようにしてできた窪み状の地形をドリーネと呼びます。羅生門はその崩落に取り残された洞窟の一部です。
ドリーネは洞窟の崩壊だけでなく、地表の石灰岩が雨水で溶食されることによっても起こります。羅生門の場合はその面積の小ささの割に深い縦穴を持つこと、羅生門のような崩落を免れた残りが存在することから、洞窟の崩落によるものと考えられているのでしょう。
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